E-DESIGN|Landscape design, Architectural design, Construction

近畿大学

【洗心の庭】

大学キャンパスにおける中庭のリニューアル・デザインである。求められたのは、学生が様々なスタイルで活動し憩うことができる場所にすること。

もう一つは、美しい庭として甦ることであり、芝生を中心にした中庭が望まれた。

そこで、環境の美しさとともに、そこに佇む人々が魅力的に見えることを大切にしたいと考えた。

学生数の多い近畿大学において、中庭を使いこなす人々が主役となるような、眺めて美しい風景と関わって楽しい環境を同時に実現することを目指したのである。

実際には背景となる校舎と樹木を合わせて「環境の器」としてとらえ、すべて残すことにした。そこに、雑然とした印象を与えていた場所が一体感を得るための舞台を滑り込ませたのである。

学生たちはこの舞台をいかし座ったり、寝ころんだりしてそれぞれの思いですごしている。

【アカデミックシアター】

本計画は、既存学部棟の建て替えと新学部設立に伴う新たな教育環境の整備、文理の垣根を越えて社会の問題を解決に導くための価値創造のためのプロジェクト室(ACT)が入るアカデミックシアターのランドスケープデザインである。

学生たちが自然の移ろいや気配を感じとることを通して、物事に対する新しい視点・発見・疑問を抱くきっかけとなるような環境の創出を目指した。

風景の調律を担う白い基壇の展開

2007年からこれまでキャンパスの再整備に関わり続ける中で、一貫して揚げてきたコンセプトが「風景の調律」である。時代も設計者も異なる個々の場所を、一体的なキャンパスのイメージが持てるようにするランドスケープ・リノベーションである。再整備の共通素材である「白い基壇」を本計画でも採用し、キャンパス全体の調和を図りつつ、人々の関わりを誘発し、佇む姿が美しく見える屋外空間の創出を目指した。

森の中に居るような環境の創出

図書閲覧とACTからなるアカデミックシアターは、2層キューブ状の室内空間が10度の傾きをもって点在し、この揺らぎから生まれた「間」の空間に吹き抜けの外部環境が存在する。「本」、「ACTの活動」、「自然の要素」が複層的に重なりながら屋内と屋外が連続する。

植栽計画では森の中に居るような環境の創出を目指し、自然樹形の樹木を採用。樹高の異なる樹木を複層的に配置するとともに、森の中の林床を再現した低木・地被植栽を行うことで、作り込まれた庭ではなく1/1の自然環境を再現した。個々の吹き抜け空間には8~10mクラスのアオダモやヒサカキを植栽し、2階からも森の気配を感じることができる設えとしている。360度から見られる表裏の無い吹き抜け空間であることから、水平方向にも複層的な樹木配置に気を配り、現場にて位置を調整しながら植栽を行った。



<フォーカスポイント>

【新学部】

キャンパスの象徴となるゲートプラザの再生

本計画は、近畿大学東大阪キャンパス整備計画の内、大学のシンボルである西門エリアにおける広場デザインである。キャンパス整備計画では一貫して「キャンパス風景を調律する」というランドスケープデザインコンセプトを揚げてきた。本計画ではキャンパスの歴史や豊かな緑環境を守り受け継ぎながら、本部キャンパスのゲートプラザとして相応しい象徴的で統一感のある広場づくりを目指した。

既存環境や、新たな建築プログラムに呼応するよう挿入された「積層する白い基壇」が、広場の新たな構造として骨格を形成することで、広場内に密集していた学生の通過動線を効果的に整理、再編した。これにより広場には動線を集約する東西・南北のプロムナードに加え、各種イベント開催が可能なソーシャルな空間と、小さな屋外リビングのようなプライベート性を帯びた小広場の共存が可能となった。

植栽桝やステップを形成する「積層する白い基壇」は広場の全体性を創り出すと同時に、学生たちが集い思い思いの時を過ごすきっかけとなるよう、場所毎に段差や形状が異なる個性豊かで身体性の高い空間とした。また積層基壇の段数や形状を既存樹木の位置やレベルにも合わせて変化させることで、広場内の既存樹の大部分を保存することに成功した。さらに、既存の銅像や石材の一部も積極的に保存・活用することで、広場の記憶や大学の歴史が今後も受け継がれていくよう配慮している。

このように、本リニューアル計画はキャンパスの環境資産の保存・継承と、学生の居場所の獲得の両立を一つのデザイン言語(「積層する白い基壇」)で解こうと試みたものであり、一連の大規模キャンパスリニューアル計画の起点として、キャンパス風景の創出/調律の継続的発展を目指した新しい手法を示したものと位置づけられる。

名称
近畿大学
所在地
大阪府東大阪市
規模
竣工
主要用途
忽那裕樹、山田匡、石原康宏、島葵
デザイナー
受賞
平成22年度造園学会設計作品奨励賞

PROJECT